FXの両建ては「禁じ手」と考える人も多いでしょう。しかし、正しく活用すればリスクを抑えながら取引を続ける有効な手段となります。
両建てとは、同じ通貨ペアで買いと売りの両方のポジションを同時に持つ取引手法です。一見すると利益も損失も相殺されて意味がないように思えますが、実は巧妙なリスク管理術として多くのトレーダーが活用しています。
この記事では、両建てを使ったリスク回避の具体的な方法から、メリット・デメリットまで詳しく解説します。初心者の方でも理解できるよう、実例を交えながら分かりやすくお伝えしていきます。
両建てとは?FX取引における基本的な仕組み
両建ては、同一通貨ペアで買いポジション(ロング)と売りポジション(ショート)を同時に保有する取引手法です。たとえば、ドル円で1万通貨の買いポジションを持ちながら、同時に1万通貨の売りポジションも持つ状態を指します。
通常のFX取引では、上がると思えば買い、下がると思えば売りという「片張り」が基本です。しかし両建ては、相場の方向性に関係なくポジションを維持できる点が大きく異なります。
同一通貨ペアで買いポジションと売りポジションを同時保有する手法
両建ての最も基本的な形は、全く同じ数量の買いと売りを持つ完全両建てです。この場合、相場がどちらに動いても損益は変わりません。買いで1万円の利益が出れば、売りで1万円の損失が発生するからです。
ただし、実際の取引では部分的な両建ても多く活用されます。たとえば、3万通貨の買いポジションに対して1万通貨の売りポジションを追加する方法です。これにより、全体的には2万通貨分の買いポジションを維持しながら、リスクを一部軽減できます。
通常の片張り取引との違い
片張り取引では、予想が外れると損失が拡大し続けるリスクがあります。一方、両建ては損失の拡大を一時的に止められる点が最大の違いです。
具体例で見てみましょう。ドル円を110円で1万通貨買ったとします。相場が108円まで下落すれば、2万円の含み損が発生します。この時点で1万通貨の売りポジションを追加すれば、それ以上の損失拡大は止まります。
もちろん、相場が再び上昇した場合の利益も制限されますが、まずは損失を限定することが優先される場面で威力を発揮します。
両建て可能なFX会社の特徴
国内FX会社の多くは両建て取引を認めています。ただし、会社によって証拠金の扱いが異なる点に注意が必要です。
| FX会社の特徴 | 証拠金の扱い | 取引コスト |
|---|---|---|
| 証拠金相殺タイプ | 買いと売りで相殺、実質0円 | スプレッドは両方に発生 |
| 証拠金別計算タイプ | 買いと売りそれぞれに必要 | スプレッドは両方に発生 |
| 海外FX会社 | 多くが証拠金相殺 | スプレッドが広い傾向 |
証拠金相殺タイプの場合、同じ数量の両建てなら実質的な証拠金はゼロになります。これにより、資金効率を保ちながら両建て戦略を実行できるのです。
両建てを使ったリスク回避型トレードの3つの手法
両建てによるリスク回避には、大きく分けて3つの手法があります。それぞれ異なる場面で効果を発揮するため、状況に応じて使い分けることが重要です。
1. 含み損ポジションの損失拡大防止策
最も一般的な両建て活用法が、含み損を抱えたポジションの損失拡大を防ぐ方法です。予想と反対に相場が動いた際、一時的に反対ポジションを建てることで損失を固定します。
たとえば、ユーロドルを1.2000で買ったものの、1.1950まで下落してしまったとします。この時点で500pipsの含み損です。さらなる下落を警戒して、同じ数量の売りポジションを1.1950で建てます。
これにより、相場がさらに下落しても損失は500pipsで固定されます。その間に相場分析を行い、適切なタイミングでどちらかのポジションを決済する戦略です。
2. 相場急変時の緊急回避手段
経済指標発表や要人発言など、相場が急変する可能性がある場面でも両建ては有効です。ポジションを手放したくないものの、一時的にリスクを回避したい場合に活用します。
重要な経済指標の発表前に、既存のポジションと反対方向に同じ数量のポジションを建てます。指標発表後の相場の動きを見極めてから、不要なポジションを決済する方法です。
ただし、この手法はスプレッドコストが二重にかかるため、短期間での活用に留めることが重要です。長期間両建て状態を維持すると、コスト負担が大きくなってしまいます。
3. スワップポイント差を活用した長期戦略
高金利通貨と低金利通貨のペアでは、買いと売りでスワップポイントに差が生まれます。この差額を狙った長期的な両建て戦略も存在します。
オーストラリアドル円を例に見てみましょう。買いスワップが日額50円、売りスワップが日額-30円だとします。同じ数量の両建てを行うと、差し引き日額20円のスワップ収入が得られる計算です。
ただし、この戦略にはスプレッドコストとスワップポイントの変動リスクが伴います。また、FX会社によってはスワップポイントの差が小さく、実質的な利益が期待できない場合もあります。
両建てトレードのメリット5つ
両建て取引には、従来の片張り取引にはない独特のメリットがあります。これらを理解することで、より効果的な活用が可能になります。
1. 損失の限定効果
両建ての最大のメリットは、損失を一定の範囲内に抑えられることです。含み損を抱えたポジションに対して反対ポジションを建てることで、それ以上の損失拡大を防げます。
通常の損切りでは確定損失となりますが、両建てなら将来的な利益回復の可能性を残しながらリスクを管理できます。相場が再び有利な方向に動いた際、適切なタイミングで片方のポジションを決済すれば利益を得ることも可能です。
2. 相場方向性の見極め時間確保
相場の方向性に迷った際、両建てによって判断時間を稼ぐことができます。急激な相場変動や重要なニュース発表時など、即座に判断が困難な場面で特に有効です。
両建て状態を維持しながら、チャート分析や情報収集を行い、より確実性の高い判断を下すことができます。この時間的余裕が、結果的により良いトレード結果につながることが多いのです。
3. ポジション調整の柔軟性向上
両建ては段階的なポジション調整を可能にします。一度に全てのポジションを決済する必要がなく、市場状況に応じて部分的に調整できるのです。
たとえば、5万通貨の買いポジションに対して3万通貨の売りポジションを建てた場合、実質的には2万通貨の買いポジションを維持できます。相場状況に応じて、売りポジションを1万通貨ずつ決済し、リスクを段階的に調整することが可能です。
4. 心理的な安心感
損失が拡大し続ける恐怖から解放されることで、冷静な判断を下しやすくなります。感情的になりがちな相場下落局面でも、両建てによってパニック売りを避けることができるのです。
この心理的な安心感は、長期的な取引成績の向上にもつながります。冷静な状態で市場分析を行い、合理的な投資判断を下せるようになるからです。
5. 資金効率の最適化
証拠金相殺システムを採用するFX会社では、両建てポジションの証拠金が相殺されます。これにより、実質的に追加の証拠金なしでリスクヘッジが可能になります。
| ポジション状況 | 必要証拠金 | 実質リスク |
|---|---|---|
| 買い5万通貨のみ | 20万円 | フルリスク |
| 買い5万通貨+売り3万通貨 | 8万円 | 2万通貨分のリスク |
| 買い5万通貨+売り5万通貨 | 0円 | リスク中立 |
この資金効率の良さが、両建て戦略の大きな魅力の一つとなっています。
両建てトレードのデメリット4つ
メリットがある一方で、両建てには看過できないデメリットも存在します。これらを十分理解せずに取引を行うと、思わぬ損失を被る可能性があります。
1. 証拠金の二重負担
証拠金相殺システムを採用していないFX会社では、買いと売りそれぞれに証拠金が必要になります。同じ数量の両建てを行う場合、通常の2倍の証拠金を用意しなければなりません。
この証拠金負担により、他の取引機会を逃す可能性もあります。資金を両建てポジションに拘束されることで、新しい投資チャンスに対応できなくなるリスクがあるのです。
2. スプレッドコストの増加
両建てでは、買いと売りの両方でスプレッドコストが発生します。通常の片張り取引と比較して、実質的なコストが2倍になることを意識する必要があります。
| 取引パターン | スプレッドコスト | 例(ドル円0.3pipsの場合) |
|---|---|---|
| 片張り1万通貨 | 1回分 | 300円 |
| 両建て1万通貨ずつ | 2回分 | 600円 |
| 両建て決済時 | さらに2回分追加 | 合計1,200円 |
特に短期間で両建てを解消する場合、このコスト負担が利益を大きく圧迫することがあります。
3. スワップポイントの差額損失
多くの通貨ペアでは、買いスワップよりも売りスワップの方が不利に設定されています。両建てを継続することで、この差額分が日々損失として蓄積されていきます。
高金利通貨のトルコリラ円を例に見てみましょう。買いスワップが日額100円、売りスワップが日額-120円の場合、両建てを継続すると日額20円の損失が発生し続けます。
長期間の両建て継続は、この累積損失によって本来の投資目的を損なう可能性があります。
4. 決済タイミングの判断難易度
両建て状態から利益を得るには、適切なタイミングでどちらかのポジションを決済する必要があります。しかし、この判断は通常の取引よりも複雑になりがちです。
相場が上昇した際に売りポジションを決済すべきか、下落した際に買いポジションを決済すべきか。その判断を誤ると、せっかくのヘッジ効果が無駄になってしまいます。
また、両方のポジションを同時に決済してしまうと、スプレッドコストだけが残る結果になりかねません。適切な出口戦略を事前に計画しておくことが不可欠です。
両建て取引に必要な証拠金の計算方法
両建て取引を始める前に、必要な証拠金を正確に把握することが重要です。FX会社によって計算方法が異なるため、事前の確認が必要になります。
証拠金の算出基準
国内FX会社の多くは、個人投資家に対してレバレッジ25倍の制限を設けています。これに基づく基本的な証拠金計算式は以下の通りです。
必要証拠金 = 取引数量 × 現在レート ÷ レバレッジ倍率
ドル円を150円で1万通貨取引する場合:
1万通貨 × 150円 ÷ 25倍 = 60,000円
両建ての場合、この計算をポジションごとに行うか、相殺後の実質ポジションで行うかがFX会社によって異なります。
レバレッジとの関係性
両建て取引においても、レバレッジの概念は重要な役割を果たします。ただし、実効レバレッジの計算方法が通常の取引と異なる場合があります。
| ポジション構成 | 必要証拠金 | 実効レバレッジ |
|---|---|---|
| 買い1万通貨のみ | 6万円 | 25倍 |
| 買い1万通貨+売り1万通貨 | 0円(相殺型) | 計算不能 |
| 買い3万通貨+売り1万通貨 | 12万円(実質2万通貨分) | 25倍 |
証拠金相殺型のFX会社では、完全両建ての場合に証拠金がゼロになるため、理論上は無限大のレバレッジ状態となります。
資金管理における注意点
両建て取引では、通常以上に綿密な資金管理が求められます。特に以下の点に注意が必要です。
まず、スワップポイントの差額による日々の損失を考慮した資金計画を立てることです。年間を通じて両建てを継続する場合、このコストが相当額になる可能性があります。
次に、相場の急変時に追加の証拠金が必要になるケースへの備えです。部分的な両建ての場合、残存するポジションが大きな含み損を抱える可能性があります。
最後に、両建て解消時の資金需要も考慮する必要があります。利益確定のために片方のポジションを決済する際、証拠金の再計算が発生するためです。
リスク回避型両建ての実践例
理論だけでは理解しにくい両建て取引を、具体的な実例を通じて見ていきましょう。実際のトレードシーンを想定した実践例で、その効果と注意点を確認できます。
具体的な取引シナリオ
田中さん(仮名)は、ドル円を148円で5万通貨買いポジションを持っていました。しかし、アメリカの金利政策変更により相場が急落し、146円まで下落してしまいます。この時点で10万円の含み損を抱えています。
さらなる下落を警戒した田中さんは、146円で3万通貨の売りポジションを追加しました。これにより、全体では実質2万通貨の買いポジションを維持しながら、リスクを軽減する戦略を取ったのです。
その後、相場は一時144円まで下落しましたが、最終的に147円まで回復しました。この間の損益変動を詳しく見てみましょう。
エントリーから決済までの流れ
| 時点 | レート | 買いポジション損益 | 売りポジション損益 | 合計損益 |
|---|---|---|---|---|
| 初回エントリー | 148円 | 0円 | – | 0円 |
| 両建て開始 | 146円 | -10万円 | 0円 | -10万円 |
| 最大下落時 | 144円 | -20万円 | +6万円 | -14万円 |
| 売りポジション決済 | 147円 | -5万円 | -3万円 | -8万円 |
田中さんは147円で売りポジション3万通貨を決済しました。決済時の損失は3万円でしたが、相場がさらに上昇する可能性を見込んで買いポジションは継続保有することにしたのです。
最終的に買いポジションを149円で全て決済し、初回エントリーから+5万円の利益を確保できました。両建てを活用せずに損切りしていた場合と比較すると、大幅に収益が改善された結果となります。
損益計算の実例
この取引における詳細なコスト分析も重要です。両建て戦略には様々なコストが発生するためです。
取引コスト内訳:
- 初回買いエントリー時のスプレッド:1,500円(5万通貨×0.3pips)
- 売りエントリー時のスプレッド:900円(3万通貨×0.3pips)
- 売りポジション決済時のスプレッド:900円
- 買いポジション最終決済時のスプレッド:1,500円
- 両建て期間のスワップ差額:2,100円(30日×70円)
- 合計取引コスト:6,900円
純利益は5万円から6,900円を差し引いた4万3,100円となります。一方、両建てを使わずに146円で損切りしていた場合は10万円の確定損失でした。
この比較から、適切に運用された両建て戦略が大幅な損失回避につながることが分かります。ただし、相場が継続的に下落していた場合は異なる結果になっていた可能性もあります。
両建てトレードで失敗しないための注意点
両建ては強力なリスク管理ツールですが、運用を誤ると思わぬ損失を招く可能性があります。成功確率を高めるための重要な注意点を確認していきましょう。
適切な決済順序
両建てポジションをどの順序で決済するかは、最終的な損益に大きく影響します。基本的な考え方として、含み益のあるポジションを先に決済し、含み損のあるポジションは相場回復を待つ方法があります。
ただし、この判断には相場の今後の方向性予測が不可欠です。上昇トレンドが継続すると判断できる場合は売りポジションを決済し、下降トレンドが続くと予想される場合は買いポジションを決済するのが合理的です。
決済タイミングを逃さないためには、事前に明確な決済ルールを設定しておくことが重要です。「○○円まで回復したら売りポジションを決済する」といった具体的な基準を決めておきましょう。
相場分析の重要性
両建て中も継続的な相場分析は欠かせません。テクニカル分析やファンダメンタルズ分析を通じて、適切な決済タイミングを見極める必要があります。
特に重要なのは、トレンドの転換点を見極める能力です。両建て開始時とは異なる相場環境になった場合、速やかに戦略を修正する柔軟性が求められます。
経済指標の発表予定や要人発言のスケジュールも常にチェックし、相場に大きな影響を与える可能性があるイベントを事前に把握しておきましょう。
資金管理ルールの徹底
両建て取引では、通常以上に厳格な資金管理が必要です。特に以下の点を徹底する必要があります。
1. 最大損失額の設定
両建て開始前に、許容できる最大損失額を明確に決めておきます。スワップポイントの差額損失も含めて計算することが重要です。
2. 両建て継続期間の上限設定
無期限に両建てを続けると、コストが膨らみ続けます。「最長30日間」など、明確な期間制限を設けましょう。
3. 証拠金余力の確保
相場急変時に追加の証拠金が必要になる可能性を考慮し、常に十分な資金余力を保持しておくことが大切です。
これらのルールを守ることで、両建てのメリットを最大限活用しながら、リスクを適切にコントロールできるようになります。
まとめ
両建てを使ったリスク回避型トレードは、適切に活用すれば強力な武器となります。損失の限定、判断時間の確保、心理的な安定など、数多くのメリットを提供してくれるからです。
しかし、スプレッドコストの増加、スワップポイントの差額損失、決済タイミングの判断難易度など、看過できないデメリットも存在します。これらの特性を十分理解せずに取引を行うと、期待した効果を得られない可能性があります。
成功の鍵となるのは、事前の綿密な計画と継続的な相場分析です。明確な決済ルールを設定し、資金管理を徹底することで、両建ての真価を発揮させることができるでしょう。初心者の方は少額から始めて、徐々に経験を積み重ねていくことをおすすめします。
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