FXの両建てとは?国内FXで可能な取引方法とメリット・デメリットを解説

FX取引を始めたばかりの方にとって、両建ては少し複雑に感じるかもしれません。しかし、仕組みを理解すれば、リスク管理に役立つ有効な取引手法です。

両建ては同じ通貨ペアで売りと買いのポジションを同時に保有する取引方法です。相場の方向性に迷った時や、一時的にポジションを保護したい時に活用されます。国内FX業者では金融庁の規制により、多くの業者で両建て取引が認められています。

今回は両建ての基本的な仕組みから、メリット・デメリット、実際の取引方法まで詳しく解説します。初心者の方でも理解しやすいよう、具体例を交えながらご説明していきます。

目次

FXの両建てって何?初心者でもわかる基本の仕組み

両建てとは同じ通貨ペアで売りと買いを同時に持つこと

両建ては、同一の通貨ペアで売りポジション(ショート)と買いポジション(ロング)を同時に保有する取引手法です。たとえば、USD/JPYで1万通貨の買いポジションと1万通貨の売りポジションを同時に持った状態を指します。

この状態では、相場がどちらに動いても理論上は損益がゼロになります。買いポジションで利益が出れば、売りポジションで同額の損失が発生するためです。逆も同様で、完全にヘッジされた状態となります。

両建ては一見すると意味のない取引に思えるかもしれません。しかし実際には、相場の急変時やポジション調整時に有効な戦略として活用されています。

両建てと他の取引手法との違い

両建ては通常の片張り取引とは大きく異なります。片張り取引では、相場の方向性を予測して一方向のポジションのみを保有します。これに対し、両建てでは相場の方向性に関係なく、リスクを中立化することが主な目的です。

ヘッジ取引との違いも理解しておきましょう。異なる通貨ペアや商品を使ったヘッジは、相関関係を利用してリスクを軽減します。両建ては同一通貨ペアでの完全なヘッジとなります。

また、ナンピンやマーチンゲール手法とも性質が異なります。これらは損失拡大を前提とした手法ですが、両建ては損失の固定化や一時的な保護が目的となります。

国内FXと海外FXでの両建て対応状況

国内FX業者では、金融庁の規制により多くの業者で両建て取引が可能です。ただし、業者によって証拠金の扱い方や取引条件が異なります。一般的に、国内業者では両建て時の証拠金優遇制度を設けているケースが多くあります。

海外FX業者の場合、業者によって両建てに対する方針が大きく異なります。完全に禁止している業者もあれば、同一口座内でのみ認めている業者もあります。複数口座間での両建ては、多くの海外業者で禁止されています。

国内業者を選ぶメリットは、規制が明確で安心して両建て取引ができることです。また、税制面でも海外業者より有利な場合が多く、初心者には国内業者での両建て取引をおすすめします。

国内FX業者で両建て取引ができる理由と規制状況

金融庁の規制と両建てが認められている背景

国内FX業者で両建てが認められているのは、金融庁の規制方針に基づいています。2010年のレバレッジ規制導入時、両建ては投資家保護の観点から有効な手段として位置づけられました。

金融庁は両建てを「リスクヘッジ手段の一つ」として認識しています。特に、相場の急変時や経済指標発表前後に、一時的にポジションを保護する手段として有効だと評価されています。

ただし、両建てを悪用した不正取引は厳しく規制されています。異なる業者間での両建てによる価格差を利用したアービトラージなどは、市場の健全性を損なう行為として監視されています。

主要な国内FX業者の両建て対応一覧

国内の主要FX業者における両建て対応状況を整理してみましょう。

FX業者名両建て対応証拠金優遇特徴
GMOクリック証券対応あり証拠金は片方のみ
DMM FX対応ありスプレッドが狭い
SBI FXトレード対応あり1通貨から取引可能
外為どっとコム対応あり情報コンテンツが充実
YJFX!対応ありPayPay証券に統合
楽天証券対応あり楽天ポイントが貯まる

多くの国内業者で両建てに対応しており、証拠金優遇制度も提供されています。業者選びの際は、スプレッドや取引ツールの使いやすさも考慮しましょう。

両建て時の証拠金の扱い方

両建て時の証拠金は、国内業者では優遇制度が適用されます。通常、同じ数量の売りと買いポジションを保有する場合、必要証拠金は片方のポジション分のみとなります。

たとえば、USD/JPYで1万通貨の買いと売りを両建てした場合、本来なら2万通貨分の証拠金が必要です。しかし優遇制度により、1万通貨分の証拠金のみで取引できます。

ただし、数量が異なる場合は差額分の証拠金が必要になります。買い2万通貨、売り1万通貨の場合、差額の1万通貨分の証拠金が必要となります。この仕組みを理解しておくことが、効率的な資金運用につながります。

FX両建て取引の5つのメリット

1. 相場の方向性に迷った時のリスクヘッジ効果

相場の方向性が読めない局面では、両建てが強力なリスクヘッジ手段となります。重要な経済指標の発表前や、地政学リスクが高まった時に特に有効です。

たとえば、米雇用統計の発表前にUSD/JPYのポジションを保有していたとします。発表結果次第で大きく動く可能性がありますが、方向性の予測は困難です。このような時に両建てすることで、一時的にリスクを中立化できます。

発表後に相場の方向性が明確になったら、不要な方のポジションを決済すれば良いのです。この手法により、予想外の損失を回避しながら、利益機会を維持できます。

2. ポジションを維持しながら一時的な損失を抑制

含み損が拡大したポジションを手放したくない場合、両建てにより損失の拡大を一時的に止められます。これは「つなぎ売り」や「つなぎ買い」と呼ばれる手法です。

買いポジションで含み損が発生している時に、同数量の売りポジションを追加します。これにより、それ以上の損失拡大を防げます。相場が反転した際に、売りポジションを決済すれば、元の買いポジションの利益確定も可能です。

ただし、この手法にはスプレッドコストやスワップポイントの負担が発生します。長期間の両建て維持は、コスト面で不利になる可能性があることも理解しておきましょう。

3. スワップポイントを活用した収益機会

両建てでもスワップポイントを活用した収益機会があります。特に、金利差の大きい通貨ペアで有効な戦略となります。

高金利通貨の買いポジションを保有すると、通常はプラスのスワップポイントを受け取れます。同時に売りポジションを保有すると、マイナスのスワップポイントが発生します。しかし、業者によってはスワップポイントの設定に差があるため、両方合わせてもプラス収益になる場合があります。

通貨ペア買いスワップ売りスワップ合計
TRY/JPY+15円-18円-3円
ZAR/JPY+8円-12円-4円
MXN/JPY+12円-15円-3円

現実的には、多くの場合で合計はマイナスになります。しかし、業者選びやタイミングによっては、有利な条件で両建てできる可能性もあります。

4. 急激な相場変動時の緊急避難策

相場の急変時に、既存ポジションを守るための緊急避難策として両建てが活用できます。特に、重要なサポートやレジスタンスラインを割れた時に有効です。

買いポジションを保有中に、重要なサポートライン割れが発生したとします。損切りも選択肢ですが、一時的な下落の可能性もあります。このような時に売りポジションを追加することで、さらなる損失を防げます。

相場が安定したら、状況に応じてポジションを整理します。反転すれば売りポジションを決済し、下落継続なら買いポジションを決済するという戦略が可能です。この柔軟性が両建ての大きな魅力といえます。

5. 税金対策としての損益調整効果

両建ては税金対策としても活用できます。特に年末に含み益のあるポジションを持っている場合、翌年への利益繰り延べが可能です。

12月に大きな含み益があるポジションに対して、逆方向のポジションを建てます。年をまたいで両建てを維持し、新年に含み益のポジションを決済します。これにより、利益の実現タイミングを調整できます。

ただし、この手法は税務上のリスクも伴います。税務署からの指摘を受ける可能性もあるため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。また、スワップポイントやスプレッドコストも考慮した総合的な判断が必要です。

FX両建て取引の4つのデメリット

1. スプレッドコストが2倍発生する問題

両建て取引の最大のデメリットは、スプレッドコストが2倍発生することです。通常の取引では1回のスプレッドで済みますが、両建てでは売りと買いの両方でスプレッドが発生します。

USD/JPYのスプレッドが0.2銭の場合、1万通貨の片張りなら20円のコストです。しかし両建てでは、買いで20円、売りで20円の合計40円のコストが発生します。これは取引頻度が高くなるほど、収益に大きな影響を与えます。

さらに、ポジション整理時にも追加のスプレッドコストが発生します。両建て状態から片方のポジションを決済する際、再びスプレッドを支払う必要があります。短期間での両建て利用は、コスト負担が重くなりがちです。

2. 証拠金が増加して資金効率が悪化

両建てでは証拠金優遇制度があるものの、完全に無料ではありません。同数量なら片方分の証拠金で済みますが、数量が異なる場合は追加の証拠金が必要です。

たとえば、元々1万通貨の買いポジションを持っていた場合を考えましょう。1.5万通貨の売りポジションを追加すると、差額の5,000通貨分の証拠金が新たに必要になります。

ポジション数量必要証拠金実質証拠金
買い1万通貨4万円4万円
売り追加1.5万通貨6万円2万円
合計10万円6万円

この例では、本来10万円必要な証拠金が6万円で済みます。しかし、元の取引と比べると証拠金は1.5倍に増加しています。資金効率の観点では、決して有利とはいえません。

3. スワップポイントの差額でマイナス収支になるリスク

両建て時のスワップポイントは、多くの場合でマイナス収支となります。FX業者は売りと買いのスワップポイントに差をつけており、両方を保有するとマイナスの合計になるよう設定されています。

AUD/JPYの例で見てみましょう。買いスワップが+10円、売りスワップが-15円の場合、両建てすると1日あたり5円のマイナスが発生します。長期間の両建て維持は、このコスト負担が累積していきます。

期間1日あたり累積コスト
1週間-5円-35円
1ヶ月-5円-150円
3ヶ月-5円-450円

短期間なら無視できる金額ですが、長期になると無視できないコスト負担となります。両建ての期間は最小限に抑えることが重要です。

4. 取引が複雑化して判断ミスを招く可能性

両建ては取引の複雑さを大幅に増加させます。複数のポジションを同時に管理する必要があり、初心者には判断が困難な場面が多く発生します。

特に問題となるのは、ポジション整理のタイミングです。どちらのポジションを先に決済すべきか、相場状況を正確に判断する必要があります。間違った判断をすると、せっかくのヘッジ効果が台無しになってしまいます。

また、複数のポジションを持つことで、全体の損益状況が把握しにくくなります。個別のポジションは利益が出ていても、トータルではマイナスになっている場合もあります。定期的な損益確認と、明確な戦略に基づいた取引が不可欠です。

実際にFXで両建て取引を行う手順と方法

両建て取引の基本的な注文方法

両建て取引は、通常の注文方法とほぼ同じ手順で行えます。既に買いポジションを保有している状態で、同じ通貨ペアの売り注文を出すだけです。多くの国内FX業者では、自動的に両建て状態として認識されます。

まず取引画面で対象の通貨ペアを選択します。既存のポジションと反対方向の注文を入力しましょう。数量は既存ポジションと同じか、戦略に応じて調整します。注文タイプは成行、指値、逆指値のいずれでも選択可能です。

注文が約定すると、ポジション一覧に売りと買いの両方が表示されます。業者によっては、両建て状態が分かりやすく表示される場合もあります。証拠金の計算も自動的に優遇制度が適用されます。

両建てポジションの管理と決済タイミング

両建てポジションの管理では、全体の損益状況を常に把握することが重要です。個別ポジションの損益だけでなく、スプレッドコストやスワップポイントも含めた総合的な収支を確認しましょう。

決済タイミングの判断には、明確な基準を設けることが大切です。テクニカル分析やファンダメンタルズ分析に基づいて、相場の方向性が明確になった時点で不要なポジションを決済します。

相場状況決済戦略注意点
上昇トレンド確認売りポジション決済買いポジションで利益確定も検討
下降トレンド確認買いポジション決済売りポジションで利益確定も検討
レンジ相場継続両建て維持コスト負担を考慮して期間制限

感情的な判断を避け、事前に決めたルールに従って決済することが成功の鍵となります。

効果的な両建て戦略の立て方

効果的な両建て戦略には、明確な目的設定が不可欠です。リスクヘッジが目的なのか、利益確定のタイミング調整が目的なのかを明確にしましょう。目的によって、最適な戦略は大きく異なります。

時間軸の設定も重要な要素です。短期間のヘッジなら、スプレッドコストを最小限に抑える業者選びが重要です。中長期的な戦略なら、スワップポイントの条件を重視しましょう。

リスク管理ルールの策定も欠かせません。両建て期間の上限設定、最大許容コストの設定、緊急時の対応方針などを事前に決めておきます。これらのルールがあることで、冷静な判断を維持できます。

FX両建て取引で失敗しないための注意点

両建てでも損失が発生するケースを理解する

両建ては完全なリスクヘッジに見えますが、実際には損失が発生するケースが多々あります。最も典型的なのは、スプレッドとスワップポイントによるコスト負担です。これらは相場の動きに関係なく確実に発生します。

また、ポジションサイズが異なる場合、差額分については通常のリスクが発生します。買い2万通貨、売り1万通貨の場合、実質的には1万通貨の買いポジションを保有している状態と同じです。この部分については、相場変動による損益が発生します。

業者のシステム障害やスリッページも、両建て取引では特に注意が必要です。片方のポジションだけが約定しなかったり、想定と異なる価格で約定したりすると、ヘッジ効果が失われてしまいます。

ロスカットリスクと証拠金管理の重要性

両建てでもロスカットリスクは存在します。証拠金優遇制度があっても、必要証拠金はゼロにはなりません。相場の急変時には、追加証拠金が必要になる場合があります。

特に危険なのは、レバレッジを効かせすぎた両建てです。証拠金ギリギリで両建てを行うと、わずかな相場変動でもロスカットの危険が生じます。スワップポイントのマイナス負担も、証拠金を徐々に削っていきます。

口座残高必要証拠金余裕資金安全度
10万円9万円1万円危険
15万円9万円6万円普通
20万円9万円11万円安全

余裕を持った証拠金管理が、両建て取引の成功には不可欠です。最低でも必要証拠金の1.5倍以上の資金を確保しておきましょう。

両建て禁止業者での取引リスク

海外FX業者の中には、両建てを禁止しているところがあります。知らずに両建てを行うと、利益没収や口座凍結などの重いペナルティを受ける可能性があります。

特に注意が必要なのは、複数口座間での両建てです。同じ業者の異なる口座で、反対方向のポジションを持つことを禁止している業者が多くあります。また、異なる業者間での両建ても、一部の業者では禁止されています。

国内業者でも、極端な両建て取引は監視の対象となります。明らかに不正を目的とした取引パターンは、口座凍結の原因となる場合があります。常識的な範囲での両建て利用を心がけましょう。

両建て取引におすすめの国内FX業者の選び方

両建て時の証拠金優遇制度がある業者

両建て取引を行う際は、証拠金優遇制度の内容を詳しく確認しましょう。多くの国内業者で優遇制度がありますが、具体的な条件や計算方法は業者によって異なります。

最も一般的なのは「MAX方式」です。売りと買いのポジション数量のうち、多い方の証拠金のみが必要となります。たとえば、買い3万通貨、売り2万通貨の場合、3万通貨分の証拠金のみ必要です。

一部の業者では、より有利な「ネット方式」を採用しています。売りと買いの差額分のみ証拠金が必要となる方式で、同数量なら証拠金はゼロになります。ただし、この方式を採用する業者は限られています。

方式計算方法メリット採用業者例
MAX方式大きい方の数量一般的で分かりやすいGMOクリック証券、DMM FX
ネット方式差額分のみ資金効率が最も良い一部の業者のみ
両方式合計数量優遇制度なし海外業者に多い

スプレッドとスワップポイントの条件比較

両建て取引では、スプレッドとスワップポイントの条件が通常の取引より重要になります。スプレッドは2倍発生するため、できる限り狭い業者を選びましょう。

主要通貨ペアのスプレッド比較では、以下のような状況となっています。

業者名USD/JPYEUR/JPYGBP/JPYAUD/JPY
GMOクリック証券0.2銭0.4銭0.9銭0.6銭
DMM FX0.2銭0.4銭0.9銭0.6銭
SBI FXトレード0.18銭0.38銭0.88銭0.58銭
外為どっとコム0.2銭0.4銭0.9銭0.6銭

スワップポイントについては、売りと買いの差額を確認することが重要です。両建て時の実質的なコスト負担を事前に計算しておきましょう。

取引ツールの使いやすさと両建て機能

両建て取引では、複数のポジションを効率的に管理できる取引ツールが重要です。ポジション一覧での見やすさ、一括決済機能の有無、損益計算の分かりやすさなどを確認しましょう。

特に便利なのは、両建て状態を視覚的に分かりやすく表示してくれる機能です。売りと買いのポジションを関連付けて表示したり、実質的な損益を計算して表示したりする機能があると、管理が格段に楽になります。

モバイルアプリの機能も重要な判断基準です。外出先でも両建ての状況を確認し、必要に応じて決済できる環境を整えておきましょう。急激な相場変動時には、迅速な対応が求められます。

まとめ

FXの両建ては、リスク管理の有効な手段として多くの投資家に活用されています。しかし、メリットだけでなく明確なデメリットも存在するため、慎重な判断が必要です。

スプレッドコストの2倍発生や、スワップポイントのマイナス負担は避けられないコストです。これらのコストを上回る効果が見込める場合にのみ、両建てを検討すべきでしょう。短期的なリスクヘッジには有効ですが、長期間の維持はコスト面で不利になる傾向があります。

国内FX業者では証拠金優遇制度があり、比較的安全に両建て取引を行えます。業者選びの際は、スプレッドの狭さや取引ツールの使いやすさを重視しましょう。初心者の方は、まず少額での練習から始めて、両建ての感覚を掴むことをおすすめします。適切に活用すれば、FX取引の幅を広げる有効な手法となるでしょう。

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